【救護部隊】参加者

空賊への対応

貨物船の墜落回避

負傷者の救護

【救護部隊】MVP

探究者:ナーヴィ・レイネス
 武器:入力端末
 行動:貨物船の墜落回避
 詳細:貨物船をコントロールする方法を探す。
ナーヴィ・レイネスは救護部隊に所属し、貨物船作戦において並々ならぬ功績をたてました。

【救護部隊】リザルトノベル

 世界の荒廃が、人間を原始の姿に戻したというの?
 そんな問いがフィーネ・カデンツァの頭に浮かんだ。
 それほどに堕ちた姿だった……彼ら空賊、腐肉喰らいの『バッカニア』は。
 乗機こそテクノロジーの結晶エスバイロだが、彼らのマシンはいずれも、水牛のように巨大な角、無意味に突きだした槍、威嚇するように付けられた仮面などによって過剰に装飾されている。
 乗り手も同様だ。ボロボロの毛皮を着込み、露出させた腕や膝を極彩色のタトゥーで飾り、顔にも原色中心の戦化粧を施している。
 その上で、雄叫びと言うにはあまりにプリミティブな奇声を上げ続けているのだ。
 だが問題は彼らの見た目ではない。その行動にある。
 バッカニアは沈みゆくこの貨物船を襲いに来たのだ。
 目的は収奪。金銭に食料、そして人間、とりわけ子どもの。
 すでに蛮行は始まっており、容赦のない殺戮がそれに付随している。フィーネは剣の鞘を払うと、上陸寸前の賊機に一刀を見舞った。
 賊の暴挙には、ケニー・タイソンも憤りを禁じ得ない。
「さすがの俺もこういう火事場泥棒が嫌いでね」
 言うなり彼は両脚を踏ん張り、突進してくる暴兵を迎えた。相手は、刃だけで半メートルはあろうかという大斧を振りかざしている。
 しかしケニーは動じない。迫り来る切っ先を無造作にかわすや右の鉄拳を、空賊の顔面にめり込ませたのだった。
「……好き勝手やってくるなら、見える範囲だけでもこの拳で守ってやる。それが俺の矜持だ」

 マリー・ブラッドに飛びかかってきたのは三人組の賊徒だ。揃ってニタニタ笑いしながら、有刺鉄線を巻いた棍棒を構えている。
「どっからでもかかってこい、ってヤツっすよ」
 マリーの闘いかたに戦略や戦法というものはない。そんな高級な言葉は彼女の、脳筋辞書には載っていないのだ。
 だからマリーはただそのナックルのみにて、三人いずれも滅多打ちにしていた。殴る! 殴る! 殴る! 殴る! グシャ!
 ミクシィの長い黒髪が風になびく、際どく胸元が開いたゴシックドレスは、まるで夜会にでも赴くような装いだ。けれども彼女の手にあるのは、カクテルグラスではなく左右一対の剣、円を描くようにミクシィが舞うたび、空賊の血煙が噴き上がった。
 ミクシィの隣でナックルを鳴らすは、黒い犬耳の少女さくら、ミクシィの闘いが華麗な輪舞曲(ロンド)とすれば、さくらのそれは弾ける剣舞曲、体内のエネルギーをもてあますように、百烈鮮烈のパンチを繰り出す。
「ここを通りたかったら、私の拳に耐えてからにするです!」
 さくらの大見得に応じたものでもあるまいが、このときミクシィとさくらを取り囲むように、どっと数十人の賊が殺到した。
「さ、作戦とか、あります?」
「ありませんわ」
 さくらとミクシィはうなずき合うと、とっさに背中合わせをとり得物を構えた。
 絶体絶命、と見えたのもつかの間、
「おうお前ら、お嬢さん二人にその数でかかるってのか? 恥ってものを知ったらどうだ?」
 フライパンの上のポップコーンのように、一人また一人と賊が真上に吹き飛ばされる。わっと暴兵は恐れた。彼らの背後から筋骨隆々たる偉丈夫、その名もグリード ドレッドメアが現れたのだ。まさに阿修羅の働き、グリードが無造作に拳を突き上げるたび、賊の犠牲が増えていく。
「狂龍のグリードとは俺のこと……さあ来い……俺が遊んでやろう」
 ミクシィは笑みを浮かべた。さくらも飛び上がった。一気に逆襲に移る。
 ミクシィ、さくら、グリード、この三人がひとつになれば、恐れるものは何もない!

 ミクシィら三人が奮戦する真横を、身を屈めながら進む少年があった。
 名はノエル=ウォーロック、剣戟のそばをくぐり抜ける恐怖に心臓が縮む思いだが、彼には重い責任がある。恐怖に負けるわけにはいかない。
「み、みなさぁん……! こ、こっちです……!」
 彼ははぐれた避難民数人を引き連れているのだった。
 ようやく危険地帯を抜けたとき、幸運を祝し心を鎮めるため、ノエルはステッキから星を出すパフォーマンスを披露した。

「俺ぁ諦めねぇぞ!」
 エリック・ブレイスフォードは軍服の袖を歯で引きちぎって、即席の包帯にして腕に巻いた。
 賊はそれほどの脅威ではない。数が少なければ。
 だがさきほどまでエリックは一人で大量の暴兵を引き受けなければならず、ゆえに手傷を負ってしまったのだった。
 頭部からも出血している。血が片眼に入り、視界がぼやけていた。
 だが休息はできない。銃を持った新手が押し寄せてくるのが見えた。両手剣で相手するには楽な敵ではなさそうだ。
「手を貸そうか」
 そのとき声がして、マジックミサイルがエリックの顔の横をかすめて飛び、先頭の賊を倒していた。
「君は近接戦向き、私は遠距離専門、互いを上手く利用しようじゃないか」
 見覚えのない男だった。歴戦の勇士と見える。おそらくエリックよりずっと年長だろう。
「レイウズ・ブラムハインという。見知りおいてもらおうか」
 エリックの返答を待たず、レイウズはさらなる攻撃を開始していた。
「いいだろう、俺が盾になる!」

 避難民が置いていった荷物を、宝の山とみなし物色する賊がいる。賊は夢中で金銭をポケットに詰め込もうとしていた。
 だがこの男は、首筋にちくりとした痛みを感じるや否、泡を吹いて這いつくばる格好となった。
「怠いけど壱華ちゃんの為に頑張ろうかな……」
 男の背後から彩月が姿を見せる。手にした注射器からは、薬液の残りがぽたぽたとしたたり落ちていた。
 これはなかなかいい。注射器ブスブス、敵にぶっ刺したい気分だ。
 毛皮を着た丸坊主の賊が、泣きわめく赤子を抱いてどすどすと歩いている。追いすがる母親に気がつくと、賊はこれを踏みつぶそうと片足を上げた。
 ……そのまま賊は横倒しに倒れた。丸坊主の頭が朱に染まっていた。
 ヴィクトル・ラングはスコープ越しに、母親が赤ん坊を空中で抱きとめたのを確認している。
「こんなもんでも何かの足しになったみたいだなァ」
 ヴィクトルはライフルを巡らせ新たな標的を探した。陣取った場所は高台だ。撃つべき相手ならいくらでも見つかるだろう。
 てめえ何やってんだ、と、肥った空賊が下っ端らしき者を怒鳴りつけていた。
 下っ端はあまり、賊の毛皮が似合っていない。軽くパーマのかかった上品な銀髪のせいだろうか。
 肥った賊は下っ端に、先行しろというように顎をしゃくった。
「了解」
 と言うや下っ端は、ボスの喉笛をナイフで真横に掻き切った。
「俺、そろそろ下っ端に見えない歳かと思ってたけど……ま、若く見られたと考えよう」
 ヴァルグ=ファーレンハイトはアニマのシルヴィアにそう告げて、苦笑いとともにスパイ活動を再開する。
 蓮架は後方に位置し、戦況に合わせ支援を行っていた。手にした弦楽器に籠もっているのは、彼女のアニマであるルーの力だ。
 蓮架の奏でるコードが注意を喚起した。このとき賊が、逃げる避難民に向けショットガンを抜いていた。
 だが銃を握った手に何かが突き立っていた。針? いや、注射針だ。
 直後空賊は眠るように意識を失って倒れた。
「お前さんも運がないな。何、俺も運がないさ。なんせこんなところでこんな面倒くさい出会いをしているんだからな」
 神威シオンは昏倒する空賊に救急キットを使う。これは彼を起こすための行動ではない。逆の目的によるものである。

 力攻めばかりだと不利と察したか、物陰に隠れながら少しずつ、避難民の集団に近づく空賊たちもあった。
 気取られていないと確信したか、賊の小隊長格が立ち上がった。呼び子を口にしている。仲間に報せようというのだろうか。
 だが呼び子は落ちた。小隊長の顔面が砕け散ったからだ。
「コソコソしてても、すぐに丸裸だよ」
 いくら隠れようともニンバスの目を逃れることはできない。
 ニンバスは次のミサイルを放つとともに、チームを組む味方に合図を送った。
 ミサイルの着弾点めがけ、アサルトライフルを構えて飛び込むのは豆もあいだ。もあいが取るのは飛び込んで掃射し、命中を確認することもなく風のように逃げ去るというヒットアンドアウェイの戦法だった。
 たちまち混乱を来たす賊徒のただなかに、豹のように襲いかかる姿があった。ねじれた角を持つデモニックの少女だ、名はキリル、彼女は、口に抜き身の短刀を咥えていた。
 短刀を手に持ち替えるやキリルは、賊の首や腱を中心に切り裂いていく。屈強な男たちは誰も、咄嗟のことゆえ対応できない。最後の一人が倒れたときには、キリルの姿は煙のように消え失せている。
 真っ先に逃げたのが良かったのだろう。生き延びた賊があった。男は仲間の死体の横にしゃがむと、亡骸の胸元から財布を抜き取っている。
 だが男の手は止まり、そのまま崩れ落ちる。とうに絶命していた。硬貨がバラバラとその場に散らばった。
「滅んだ世界で金の使い道はないわよ」
 イーリス・ザクセンはプラチナの髪をかきあげると、ニンバスに合図を返して次のターゲットを求めるのだった。
 ネイクは侵入してくる空賊を遠距離から倒していく。射撃位置をこまめに変えて敵に位置を悟らせない作戦だ。一人一人確実に……。

 避難民の誘導は困難を極めていた。
 誘導に回るメンバーより、避難民のほうがはるかに多い。しかもその大半は疲れ、怯え、弱り切っている。冷静な行動など望むべくもない状況なのだ。
 それでも、いや、それだからこそ、野村さやかは懸命に呼びかけ続けた。
「落ち着いて行動して下さい! 貨物船は絶対に沈みません!」
 このとき激痛が走った。さやかの肩を、流れ弾がかすめたのだ。だがそれは望むところ、避難する一般人に当たらなかったことをさやかは幸いに思うのである。
 そうしてさやかはは痛みを隠し、トランペットを吹き鳴らすのだった。
「みんなはあたしが守るんだから!」
 フイ・フーも混乱のただなかにあって、逃げ遅れた人、歩けなくなった人を中心に保護を行っていた。
 その合間に、 
「こんな状況の人間に襲いかかろうというのかね?」
 フイは賊にミサイルを喰らわせていく。
 背中に矢が突き立ち、その女性は声を上げる間もなく事切れた。彼女に手を引かれていた四歳ほどの幼児がわっと泣きだした。
 しかしその子にさしのべられた手は救いの手ではなかった。いい拾いものだ、と下劣な笑みを浮かべる空賊だった。
 空賊の歪んだ笑みはたちまち、恐怖と苦悶に塗り替えられた。
 ボロをまとった年齢不詳の男に押しのけられたからである。藪木 海音はただ賊を押しのけたのではなかった。剣の手早い一閃で、賊の片腕と片脚を切り落としていたのだった。
「殺しはしない。ただ、覚えておくといい」
 子どもを奪い返すと、海音はフードの下から鋭い一瞥を投げかけた。
「次に同じことをすれば、必ず殺しに行く」

 幼年学校から逃げてきたのだろうか。美馬坂七瀬が駆けつけた通路には、十人近い幼子が小さくなって震えていた。
「引率の大人は」
 と七瀬が問うも、内容の判然としない涙声が返ってくるだけだった。どうやら、子どもを逃がすために命を喪ったものらしい。
「わかった、私が安全なところまで連れていってあげる」
 ――子どもを守れないようでは、どのみちこの世界に明日はないわ!
 透き通る音色に導かれ七瀬が通路を抜けると、スイレンが避難民を誘導しているところに到達した。
「このまま進んで!」
 スイレンは誘導すると、自身はさらなる避難民を待つべく演奏を続けるのである。
 さながら伝承にあるセイレーンね、と思ったところでスイレンはやにわに気がつく。
 それってもしかして、縁起悪い!?
 
 大量の避難民を先導し、白鳥ユキは先頭を行く。
 そのシンボルは、アニマのポーチュラカを宿した杖だ。
 賊の対処はできるだけ他に任せている。ユキの使命は市民の気持ちを静めることだ。だから炎に炙られ、不安定な足場に難渋しながらも、ユキは心を乱さない。
 チュベローズ・ウォルプタスは避難民の大集団の後方を守っている。
「安心して下さい! 皆さんの未来は私たちが守ります」
 自分の身長ほどもある大きな盾をチュベローズが持参したのは、人々に安心感を、そして空賊に威圧感を与えるためだった。
 避難民集団の外側ではなく内側に入り、人々のケアに努めているのはミシェルだ。まだ12歳の少年だというのに、ミシェルは落ち着いた物腰で呼びかけていた。
「皆さんは私たちがお守りします」
 その口調は落ち着いているが、かといって機械的ではない。思いやりを感じさせるものである。
「さあ、怪我をした人に肩を、弱っている人に手を貸して上げて下さい。今こそ、助け合いのときです」
 優しく告げるミシェルに、どれだけの人が励まされたことだろう。
 ルフィナ・ヴィチェプスカヤは脚力強化の歌を唄いあげていた。
 水晶のように透き通った清らかな歌声には、ルフィナの想いが乗せられている。
 味方が上手く、一般人を助けられるように、また、避難する人々の道標となるように、との想いが。

 両断した賊の死骸を、鴉葉 狩人は冷ややかに見下ろしていた。
 この賊は乱戦中、逃げ遅れた少女の足首を掴み覆い被さろうとしていたのだ。獣の振る舞いである。同情の余地はあるまい。
 黙って狩人は剣を一振りする。鋸状の刃から、赤いものが霧状に飛び散った。
「去るなら追わないが?」
 狩人が切れ長の視線を向けると、賊の仲間は悲鳴をあげて逃げ散っていった。
「やるっすね!」
 阿万音凍季也は口笛を吹いた。しかし凍季也とて傍観者ではない。狩人の行動をたたえながら、おもむろに銃を構えトリガーを引いている。
 銃の射程距離ぎりぎりのところで、着陸しようとしていた賊のエスバイロが火を噴いた。エンジンを正確に射貫かれていた。
 会心の笑みを見せると、
「よし! じゃあこっちに逃げるっすよ」
 凍季也は逃げ遅れた人々を先導するのである。狩人に救われた少女もその中にいた。
 
 バッカニアは規則が緩く、ほとんどならず者の集団ゆえ士気はそもそも低い。
 最初こそ勢いがあったものの、総反撃に遭うや賊はたちまち瓦解をはじめた。逃げる者、逃げるついでに資材をかっさらおうとする者、パニックを起こして立ち往生する者など四分五裂な動きを示している。
 そんな中、子どもをさらおうとして果たせず、あろうことか撃ち殺そうとする者まで現れた。
 しかしその行動は、一発のミサイルによって止められたのである。
「……子は宝って言葉を知らないんですかね」
 カレナが放ったミサイルであった。

 どっと逃れてきた空賊たちが、自分のエスバイロを求め我先に逃げんとしている。
 だがそうそう上手くいくものでもない。撤退する空賊らの真横からRummisが、雄叫びを上げて突進してきた。
 迅い。
 Rummisはまるで弾丸だ。一人の首を叩き折ったその一呼吸後には、もう新たな獲物に殴りかかっているではないか。
 殴り飛ばされた空賊は、しかしまだ息があった。ひいひいと情けない声を上げてまたエスバイロに戻ろうとするも、Rummisが触れた瞬間に、もう彼の運命は決まっていた。銃弾に貫かれて即死する。
 名無しは冷めた目でライフルを構え直した。
 Rummisが攻撃した空賊は彼女のターゲット、そう約束している。名無しはライフルの銃身を軽く撫でていた。 アニマのFairyを褒めるかのように。

 レーヴァティン本隊にて、負傷者の救助に奔走するメンバーに目を転じよう。
 夢じゃないか。
 信濃はまだ、この状況が信じられなかった。
 伝説と思っていた竜が攻めてきた。
 それにアビスメシア教団と空賊まで!
「ひぇぇ~初っ端から大ピンチ!」
 自分は戦闘においてからっきしと思っているので、信濃は救護に回っていた。
 ただし、救護なら信濃とてそれなりの自信はある。アニマの紅信までいるのだからなおさらだ。
「大丈夫! みーんな私に任せなさい! 紅信、手伝ってね!」
 一人で三人分、いや四人分は働くスーパー看護師として信濃は奔走するのだ。野戦病院さながらとなった、レーヴァティン上の医療施設で。
 たとえ沈みゆく飛空艇(ふね)の上であっても、信濃のそばにいれば大船に乗った気持ちになれることだろう。
 白藤 和鷹の目の前で、本来の主任医師はブロントヴァイレスに焼かれた。
 あと少しで医療施設という、まさにその途上で。
 だから現在、和鷹は臨時の主任医師である。白衣は血と土煙に汚れ、酷使しすぎた腕と脚は石のように重いが、和鷹は責任を果たす。果たし続ける。
 彼は瀕死の患者に呼びかける。
「まずは生き残る事を考えるんだ。流されるな、抗え」
 それは和鷹が、自分に呼びかけている言葉でもあった。仮にこの場所に敵が来たとしたら、戦闘に加わる覚悟もあった。このとき、
「おい! そっちじゃないぞ」
 和鷹は来たばかりの救護隊員に声をかけた。隊員の名はクラック・ブレイン、彼は救出した人を移動ベッドに乗せたままどこかに運び去ろうとしていたのだ。
 呼ばれたクラックは、黙って戻ってきた。
 その隣をすり抜け、アイドルのLuxuriaちゃんが入ってくる。
「負傷者に大事なのは治療と気力!」
 場違いな存在ではなかった。彼女は求められてここに来たのだから。
「私に治療は無理……だからせめて元気づけなきゃね!」
 明るい声で呼びかける。唄う。ヒーリング効果のある歌を。
 これが私の仕事、とLuxuriaちゃんは思うのである。
「みんな大丈夫! がんばろ!」
 ――だってアイドルだもの!

 乱気流のなかよりなお酷い、雷光の嵐をつききってダグラス・ノイマンは飛ぶ。
 彼が駆るのは数人乗りの救護艇だ。死とすれすれの飛翔をこなしながら、ダグラス・ノイマンは操縦桿を握ったままひょいと振り返った。
「本来、俺は運び屋でな。救急任務は実を言えばこれが初めてだ。ていうわけでやりたくてやってるわけじゃねえが、安心しな」
 ニヤっとダグラスは唇を歪めて笑う。
「仕事ならきっちりこなすからよ!」
 目の前から雷光が来る! ダグラスはぐいと強く桿を引き急上昇した。
 比較的軽傷の負傷者ばかりだからこれで死ぬことはあるまい。
「運転の荒さは見逃してくれよ。ま、流れ弾は全部俺が受けてやるから、お前らは死ぬんじゃねえぞ!」

 Truthssoughter=Dawnは入力端末を駆使し、優れた索敵能力で敵の動きを探っていた。
 この場合の敵とは、ブロントヴァイレスにバッカニア、アビスメシア教団のすべてを指す。すべての動きを把握しきることは困難だが、すくなくとも安全確保のための指針は作れるだろう。
 その連絡を受け、憶月 はふりはエスバイロで巡航し、負傷者を見つけては医療施設へと搬送していた。
「あれは……?」
 貨物船方面から流れてきたのだろう。よろめくような飛び方で、小型飛空艇が流れてくるのが見えた。艇には数人が搭乗しているようだ。
 危なっかしい飛び方以外にも、飛空艇には尋常ならざる様子が見て取れた。
「追われてる!?」
 艇は見知らぬエスバイロに追われているのだった。空賊のメンバーに違いない。追うエスバイロの搭乗者は、毛皮をまとってチェーンを振り回している。
 はふりは全力でこの二機に追いつき、艇には着陸するよう示した。そして、
「そこの空賊にも処置が必要ですね! 喰らえ鎮静剤!」
 追ってきた空賊機に向かってはふりは、迷わず自分のエスバイロを体当たりさせたのだ。同時に注射器を投げつける。
 ごっ、とすさまじい音がした。一瞬意識が遠くなったのは脳震盪を起こしたからかもしれない。
 だが効果はあった。空賊は悲鳴を上げながら、エスバイロから振り落とされアビスへと墜ちていったのだから。
 はふりはエスバイロをレーヴァティンに着艦させると、逃げてきた飛空艇内から怪我人を連れ出した。自分も怪我をしていることを指摘されても、はふりは笑って首を振る。
「この怪我は何ともないです。私、丈夫なので!」
 その頃、緑茶と言う名の探究者は、負傷者をある程度まとめて回収していた。
 よし――緑茶は次に空賊を探した。
 空賊は緑茶を見つけた。すると彼らは次々、弓矢や銃で襲ってきたのだった。緑茶の言葉など聞く気はないらしい。

「そうか、生きてたか!」
 エクセル=クロスワードは顔を輝かせた。悲惨の一途をたどるこの戦場で、これは数少ない喜ばしい報告だ。
 彼のアニマ、ソーラーが見つけたのである。
 ケイイチ・ルドルフ・コヤナギを。
 撃墜の報までは聞いていた。だからエクセルも半ば以上、ケイイチのことを諦めていた。
 だが、エクセルにとって年の離れた弟のようなケイイチが、あっさり死んだとはとても信じられなかったのだ。
 アビスの霧で視界が不明瞭な中、エクセルは自分の乗機をソーラーに任せ、ケイイチの捜索をさせていた。ソーラーは彼の期待に応え、貨物船上で奮闘しているケイイチを発見したと伝えてくれたのだった。
「こうなったら俺もひとつ、打って出るしかねえな!」
 エクセルは剣を抜く。博物館の機体を確保し、拡散背君部隊への予備戦力を増強するとしよう。

 その頃レーヴァティンの中央部では、急ごしらえの緊急避難所が完成していた。
 比較的安全圏とはいえ戦場の一部であることに変わりはない。テントを立てている途中からすでに、次々と負傷者が運び込まれていた。
「これこそが今、僕らができる精一杯のこと……戦火から少しでも離れているこの場所ならば、治療も効率的に行えるはず」
 言いながらリーンはすでに、エスバイロが発着陸できるスペースを確保するため動き出していた。
「撤退組が再出撃できる場所になれば、なお良しだからね」
「そう思います」
 深いうさ耳フードの内側からミーニャは答えた。彼女は基本、素顔を表に出さない。しかしこの場所でも指折りの名医であった。心臓が止まった負傷者のところに駆けつけるや、蘇生措置を手早く行っている。間もなく患者は息を吹き返して咳き込んだ。
 ミーニャは小さくうなずくも、休まず別の急患のところに走って行った。
 肩で息をするミーニャをとどめて、
「大丈夫、こちらの方はワタシが看させていただきます」
 ネクロコミノはうっすらと微笑んだ。ミーニャにばかり負担をかけるわけにはいかない。
 大量出血している負傷者だった。止血処理が甘いためこの状況に陥ったのだと、すぐにネクロコミノは見抜いている。もう開けっ放しになっている救急キットから必要な機材を取り出し、直接圧迫で止血を始めた。
「人間なんだから死ぬ時は死ぬ……」
 すでにネクロコミノも血まみれだ。だがまったく気にしない。作業を続ける。
「……でも生きてるなら生かす。それが仕事」
 この世の神は何をさせたいのか? それはネクロコミノにとって常に追究すべき謎だ。
 しかし少なくとも、全力で仕事をこなすこと、それは間違ってはいないだろう。
 ネクロコミノは成功した。
 クロライトは額の汗を拭った。次から次へと負傷者が運ばれてくる。死んでしまう者も少なくない。
 ――この状況でできることは、救護に徹することだけだな。
 重傷者を優先し、軽傷者には自分でできる手当を指示する。
「とにかく生きろ」
 すべての負傷者にクロライトはそう呼びかけていた。
 桜月 サクラは疲労の極みにあった。
 この場所に来るだけでも何度も死線をくぐり抜けた。
 そしてこの緊急避難所も、決して安全とはいえない。
 次の瞬間にはブロントヴァイレスの雷撃によって、すべて焼かれてしまうかもしれないのだ。
 それでも……それでも!
 サクラは闘志を膝に込めた。目の前には、状態の酷い負傷者が運び込まれている。
 アニマに呼びかける。
「ウメ、ここからもう一頑張りよ!」
 患者にも呼びかける。
「私に任せなさい!」
 ――死なせはしない……私は医者なのだから。
 この緊急避難所に負傷者を運び込む運び屋は、主としてノーラ・サヴァイヴが担当していた。
 ノーラは救護艇のパイロットなのだ。
 救護艇は言うなれば空の救急車、しかし、サイレンさえ鳴らせば他が道を開けてくれる本当の救急車とは違い、ひとたびサイレンでも鳴らそうものなら、敵の注意を惹いて追われかねない。ゆえに運搬には細心の注意を払い続ける集中力と、大胆にして迅速な操縦技術の両方が求められた。
 そしてノーラには、その両方が備わっていた。
「一人でも多く救うんだ……!」
 ボブにした前髪が、汗で額に貼り付いている。それでもまだノーラには、アニマのミモザがかける声に「わかってますって」と返すだけの精神的余裕があった。
 ただ負傷者を回収し運ぶだけが救護艇の仕事ではない。ノーラは軽傷者を避難所に誘導することまで果たしていた。まさしく大空の守護天使、八面六臂の活躍だ。

 空賊はあらかた逃げ去ったとはいえ、賊徒ならびにブロントヴァイレスから貨物船が受けた被害は深刻だった。
 すでに船は死にかけている。
 ぐらぐらと左右に揺れ、ほうぼうから煙を上げているではないか。
「あは、焼死でゲームオーバーとか笑えないよネ!」
 船内消火に乗り出したピースであったが、さっそくトラブルに遭遇していた。
 船内見取り図をざっとチェックしてスプリンクラーや防火扉を作動させようとしたものの、その大半がすでに壊れて使えないのだった。
 だったら手作業で火を消すまでだ、とピースは腹をくくった。まずは仲間と情報共有しようじゃないか。
 船内放送のマイクを握り、黒月 メイが声を上げていた。
「指揮を務めます! 皆、私に従ってください!」
 実は放送設備も死にかけの状態だったのだが、アニマのCode:siriがシンクロすることでなんとか使用できる状態に保たれている。
 蛇上 治はメイの指示を聞きながらエンジン部に向かった。
「これは思った以上に……」
 絶句する。すでに船内火災がはじまっているではないか。下手をすると、船が沈む前に全員黒焦げだ。
 治はただちに鎮火作業に入った。一応の目処が立ったら、エスバイロからナノマシンを散布しエンジンの調整・修復を試みよう。機関部までたどり着ければ、だが。
 同じくメイの指示を聞き、ルーは消火設備に接近していた。
 だが途中の通路に炎が溢れている。火のせいで消火設備まで行けないとは、なんという皮肉か。
「だったらこうするまでだ!」
 ルーはなんと、消火設備に発砲したのだった。ビンゴというやつだ。銃で空けた穴から消化剤が溢れ、火が静まり始めたではないか。
 同時期、まゆきはエンジン部につながる通路の消火作業に加わっていた。
 ――しろちゃん、大丈夫かしら。お姉ちゃんも頑張らないと……。
 ふと、双子の妹のことを思う。
 彼女は彼女で、ベストを尽くしているはずだ。そう思ってまゆきは、判断力強化の歌を口ずさむのである。
「あの黒月って子、指揮官の才能があるのかもしれないね」
 カーディナルは消火器を持って走っていた。コンディション最悪の船内はあちこちが行き止まりになっているというのに、メイの指示に従うだけで、面白いように先に進めている。
「おっと!」
 角を曲がったところで、生き残りのバッカニア空賊と鉢合わせした。大男だったが、アッパーカットの要領でカーディナルは消火器を振り上げ、一発で相手を昏倒させている。
 まだ生き残りがいるのであれば――カーディナルは杖を構える。
 星を出して迎撃する必要があるだろう。
 ばしゃばしゃと消化剤の泡を踏みながら、ルーはエンジン部にたどり着いていた。ルーはすぐにエンジンの修理改善作業に入った。苛立ちがつい口に出る。
「早く動け!オンボロが!」
 けれどもルーの手は、時計仕掛けの装置のように正確に動いていた。
「手伝う!」
 そこに治も加わった。

 鎮火が進んだこともあり、傾ぐ船内に難渋しつつも散葉は、操舵室までたどりついていた。
「メイの船内放送の通りここまで来れたけど……」
 操舵室で唖然となる。そこには逃げ場を失った空賊が何人もこもっていたのだ。当然、やぶれかぶれになって突進してくる。
「わーん、このままじゃ落ちちゃうよーー」
 これでは船のコントロール方法を探るところではないではないか! それでも散葉は盾と剣で懸命に戦った。
 もしもこの場所にいたのが散葉一人であったら、船は墜落していたかもしれない。
 だが、
「ナーヴィ! お願ーい!」
 散葉は敵と切り結びながら叫んだ。
「は……はいっ!」
 散葉の背後にはナーヴィ・レイネスがいたのだ。ナーヴィは戦闘を散葉に任せ、船の舵に飛びついていた。
「絶対に……解析してみせます!」
 このときメインエンジンが息を吹き返した。ルーと治が成功したのだ。
「これなら!」
 ナーヴィは思い切って舵を切った。
 傾いたままゆっくりと下降していた貨物船は、これで安定を取り戻したのである。
 
「見えた……見えたぞ!」
 ブレイ・ユウガは力強く拳を振り上げた。
 難民を積んだ貨物船が来る。レーヴァティン本隊に向かってくる。
 危ない状況なのは一目瞭然だが、奇跡的に機体は水平に飛んでいた。
「どけよ!」
 どこに潜んでいたのかアビスメシア教団の残党が、ナイフを閃かせ突っ込んで来たものの、ブレイはこれを一刀両断していた。
 そして敵を叩き斬った剣をそのまま右手に、もう一本の手を左手に、交差させて貨物船の誘導を開始したのである。
「間に合ったか!」
 ドックのところで待機していたイジェクト・ロンドも、貨物船を見て歓声を上げている。アニマのフェイズアウトも、普段に似ずはしゃいでいる様子だ。
 無理もない。一度はブロントヴァイレスに襲われ死に体になった船が、満身創痍とはいえ追いついてきたのだから。
「フェイズアウト、ドックの位置を貨物船に送ってくれ! ハッチを開けるぞ!」
 こうして貨物船は、老いて死にかけた象のように、力なく、けれども重々しく、ドックに収まったのである。
 世界全体からすれば小さくとも、それは確実に勝利の瞬間だった。
 成功の喜びに船内は沸き立った。
 船内放送室の椅子に背を預け、メイはほっとしたようにマイクを置いた。今は少し、休みたかった。
 だがこのとき、メイではない声が放送に乗った。
 この貨物船だけではない。レーヴァティン全体に流れた放送だった。
 救護施設の者も、船から降りつつある難民も、空賊に傷つけられた箇所を修復している者たちも、すべてこれを聞いている。

 レーヴァテイン防衛軍の主力が全滅したとの報だった。
 あと1時間ほどでブロントヴァイレスの群れは到達するだろう、そうメッセージは続いていた。
 間もなく、竜たちは呑み尽くすに違いない。
 ほぼ丸腰となったこの旅団を。
 人類最後の都市を。
 世界を。

 ――その後この世に残るものは、ただ奈落〈アビス〉のみとなるだろう。

(執筆:桂木京介 GM)

世界が変わる瞬間

 世界が暗闇に包まれる最後の一瞬、救難所の片隅で小さな命が生まれました。
 爆発と喧噪のなか、赤ちゃんと鳴き声が響き渡る。

 ブロントヴァイレスの群れにおわれ、貨物船で避難してきた彼女は、空賊に捕まりそうになった所を探求者に救われました。
 この巨大動力炉の真上にある避難所で彼女は母になり新しい生命を誕生させたのです。

 この奇跡が時空を超えて運命の歯車が一つ小さな音をたてました。

 それは世界に小さな変化をもたらしたのです。

正面攻撃部隊
押し寄せるブロントヴァイレスから都市を守れ!
側面攻撃部隊
決死の妨害工作! 敵を引っ掻き回せ!
アビスメシア対策部隊
都市機能を守れ!
救護部隊
市民を守れ!

「運命の歯車」と小さな変化

 世界の小さな変化により「イラストコンテンツ」が解放されます。


※俺の嫁とそそらそらは終了しません。

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